【第1回】改革か、自滅か?ベトナム政府の「法改正ラッシュ」が招いた経済麻痺

ベトナム株戦略

皆さんは今のベトナム経済をどう見ていますでしょうか?

  • 「GDP成長率は6〜7%で高成長で安定的!」
  • 「中国に代わる『世界の工場』としてFDI(海外投資)が殺到!」
  • 「人口ボーナスで消費も絶好調!」

大手証券会社のレポートを見ても、「ベトナムはアジアの昇り龍だ」なんて威勢のいい言葉が並んでいます。

「順調な成長ストーリーを歩んでいる」

それは半分正解ですが、私の見解からは、残り半分は少し違った景色が見えています。

今のベトナムは「アクセル全開で前進することによって、現場は大混乱し、行政機能は麻痺し、民間企業が悲鳴を上げている」という、かなり危うい状態に見えています。

レタントン
レタントン

決してベトナム政府を批判する意図ではなく、なんかモヤモヤする部分について書きたいと思います。

ミーちゃん
ミーちゃん

ベトナムが好きすぎるがゆえの考察ということで、読んでいただければと思います。

今回、「ベトナムの狂乱とも言える大改革と株式投資への影響」について数回に分けて深堀していきたいと思います。

2026年に向けたベトナム株投資の骨格を考えるうえで、重要になるポイントで、まずは第1回目として

「ベトナムで今何が起こっているか?」

について書きたいと思います。

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「好調」の裏側にある、政府の「本気」

ベトナム共産党大会にて(Vietnam Todayより)

2045年に先進国入り

ベトナム政府は、

「2045年までに高所得国(先進国)入りする!」

という壮大な国家目標を掲げています。

それに向けて、スピード全開で次々と驚くべく改革をしようとしています。

その影響もあり、

「改革に積極的で、次々と新しい法律を作って国を良くしようとしている!」

というのが一般的な人々の理解ともとらえらてると思います。

レタントン
レタントン

2045年はベトナム共産党100周年です。

それまでに最高の成果を出したい想いです!

しかし、、、

この2045年先進国入りを達成するためには、6~8%成長という程度の成長では間に合わず、政府は2026年から2030年までは毎年10%のGDP成長率を目指すとの方針を出しました。

今の6%前後の成長でも十分すごいのに、いきなり「10%出せ!」と言われたらどうなるか?

ただでさえ、のんびり性格のベトナム人からすると、ドタバタ劇場が始まった感じです。

政府は、海外からの投資(FDI)、民間企業の資本による社会整備、そして公共事業を増加させて、この目標を達成しようとしています。

【新しいベトナム国家構想についてはこちら!】

クリーンな国へ、汚職撲滅運動

現在、ベトナムでは「焼き窯(Burning Furnace)」と呼ばれる、史上もっとも厳しい汚職撲滅キャンペーンが行われています。しかしながら、副作用も出ています。

このキャンペーンは官僚機構に恐怖心を植え付け、2021年から2023年の間に何万人もの公務員が辞職することになり、大統領2名を含む複数の高官が汚職容疑で解任される結果となりました。

悪いことをした政治家や役人が次々と逮捕されるのは、長期的にはクリーンな国になる素晴らしいことです。

しかし、短期的には役所内に「書類にハンコを押して、もし後で『間違いだった』と言われたら逮捕されるかもしれない……。だったら、何もしないのが一番安全だ!」こんな空気が充満してしまいました。

当局者の訴追には成功したものの、一部では、このキャンペーンが政治的な恨みを晴らすために利用される可能性があると懸念を表明して国の分裂を生む結果にもなっています。

レタントン
レタントン

投資家目線ではクリーンな国は投資の透明性を高めてくれており

安心して投資できる環境が作られます。

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苦難と混乱続きの制度改正

政府や行政に関わっている人々からすると、スピード感をもって、改革を進め、目標を達成するという大きな目標に向かった猛スピードで対応を進めています。

高すぎる理想、現場感覚を合わない改革、人手不足もあり、法律実施になると詳細が決まっておらず、結局うまくいかないということが繰り返し行われています。

実際にここ年で起きた、笑うに笑えない「法改正の失敗事例」を具体的に見て行きたいと思います。

【失敗1】経済を物理的に殺しかけた「消防法(PCCC)」

地方で大規模な火災が起こったことをきっかけに、「消防基準を一気に先進国レベルに引き上げる!」と大号令をかけました。意図は立派なのですが、問題は「現場を無視した中身」でした。※新消防基準(QCVN 06:2022/BXD)

  • 何が起きたか: 基準が厳しすぎて、「ベトナム国内では入手困難な特殊な耐火塗料や認定製品」を使わないと許可が下りない、という無茶な仕様になってしまったのです。
  • 結果: 稼働中の工場、倉庫、完成したばかりの商業施設が、次々と「基準不適合」で閉鎖に追い込まれました。サプライチェーンが物理的に寸断され、経営者が悲鳴を上げました。

結局、あまりの惨状に首相が「運用を緩めろ!」と指示を出しましたが、この混乱で失われた機会損失は計り知れない結果となりました。

【失敗2】不動産市場を凍らせた「改正土地法」

政府は「実勢より安すぎた『土地の公定価格』を時価に合わせよう!」と法改正を行いましたが、その準備不足が市場を直撃しました。

  • 何が起きたか: 土地の登記には納税が必要ですが、新ルールで「時価」を求められた役所はパニック。「正直に反映したら税金が数十倍になる」と板挟みになり、数ヶ月間「新しい価格表が出せない」フリーズ状態に陥りました。
  • 結果: とばっちりは民間へ。「計算基準がない → 税額が決まらない → 納税できず登記もできない」という玉突き事故が発生。 現在は解消されましたが、経済中心地の不動産売買が数ヶ月間「税金計算待ち」で物理的にストップする大混乱を招きました。

税金が払えないので、登記所は「税金の領収書がないですね? じゃあ名義変更はできません」と門前払いするしかなかったという結果となりました。

ホーちゃん
ホーちゃん

2024年8月1日の改正土地法(早期施行)に伴い、ホーチミン市税務局が土地使用権の移転に伴う税金計算を一時停止しました。9月下旬時点で約8,800件の書類が未処理で滞留するという大問題に発展しました。

【その3】合併でエリアは巨大化、でも現場はスカスカ?「行政改革」の皮肉

行政スリム化のために「県や郡の合併」と「大規模な公務員削減」の大ナタが振るわれました。

しかし、早期退職金を弾んだ結果、優秀な若手・中堅ほど真っ先に辞めて民間へ流出する事態になりました。

ホーちゃん
ホーちゃん

政令29号(Decree 29/2023/ND-CP)政府は行政のスリム化(リストラ)を加速させるため、2023年に「早期退職者に対する退職金を大幅に上乗せする」という政令を施行

レタントン
レタントン

リストラはどこの国でもこうなりますね。

  • 何が起きたか: 残された現場は処理能力が激減。さらに合併で管轄エリアだけが巨大化し、地方の現場に「判断できる専門家」がいなくなってしまいました。
  • 結果: 些細な確認・許可でも全て「本庁にお伺い」が必要になり、書類が無限に往復する「組織の動脈硬化」が発生。 「スリム化」を目指したはずが、逆に意思決定スピードが落ちるという皮肉な結末を迎えています。
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それでも改革を目指す政府、だからこそ、「公共投資株」に注目が集まる!

ここまで読むと、「ベトナム、大丈夫かな?」と不安になるかもしれません。 しかし、ここが投資家としての「視点の切り替えどころ」です。民間企業がルールの壁で動きにくい今、政府はどうやって「年率10%」近い経済成長率を維持するのでしょうか?

その答えは「公共投資(インフラ建設)」です。

道路、空港、港湾などのインフラ建設であれば、政府が発注主となって主導できるため、今の閉塞感を打破する唯一の「切り札」になります。実際に、データもそれを証明しています。

今後の予算が「桁違い」に増える!

Shinhan証券の最新レポートによると、2026年から2030年の公共投資予算は、前の5年間と比べて約2.4倍(8,310兆ドン)にまで増やされる計画です。

出所:Shinhan Securities “Public Investment Port Q3 2025”

これは単なる景気対策ではなく、政府が「インフラ建設で経済を無理やり支えるぞ!」と腹を括った証拠だと言えます。

計画だけでなく、実際の工事も進んでいます。

2025年10月の公共投資実行額は、前年同月比で+37.2%と大きく伸びています。 民間経済が足踏みをする横で、公共事業だけがフルスロットルで加速しているのです。

国家改造レベルの巨大公共投資の波がやってくる

一見すると「混乱」に見える現状ですが、裏を返せば「政府が公共投資にお金を使わざるを得ない状況」だということがわかってくると思います。

  • 行政が混乱し、民間が動きにくいからこそ、国策である「公共投資」に資金が集中する。
  • だからこそ、銀行株などではなく、「建設株」「建材株」「インフラ株」に大きなチャンスがある。

このシナリオに基づけば、今の相場はまた違った景色に見えてくるはずです。

さて、ここで一つ大きな疑問が浮かびませんか?

「政府がとんでもない規模の公共事業をやるのは分かった。でも……そのお金、一体どこにあるの?」

次回の記事では、いよいよその「中身」に迫ります。

政府が計画している「国家改造レベルの巨大プロジェクト一覧」をまとめに、実は「自転車操業」ギリギリな国家財政の裏側を考察していきます。

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