ベトナム株式市場が「フロンティア市場」から「新興市場(エマージングマーケット)」へと昇格する可能性が注目されています。この昇格が実現すれば、外国資本の大規模な流入が予想され、ベトナム市場全体の流動性向上と取引量の拡大が期待されます。また、この変化は株価の上昇や企業の国際競争力の強化につながり、ベトナム経済全体にポジティブな影響を与えるでしょう。
本記事では、「新興市場昇格」の背景や条件、進捗状況、そして市場や株価に与える具体的な影響をわかりやすく解説します。投資家にとって注目すべきこの大きなチャンスを見逃さないための情報を提供します。
ベトナム株最大のチャンス!
2025年に昇格は実現するのか、見て行きたいと思います。
ベトナム株式市場の現在位置
ベトナムは現在、FTSEやMSCIで「フロンティア市場」に分類され、FTSEフロンティア市場指数では構成比38.84%と最大の地位を占めています(2024年9月末時点)。時価総額約370億ドルと他国を大きく上回り、重要なポジションにあります。
現在、ベトナム政府は「新興市場」への昇格を目指し、さまざまな改革を進めています。ベトナムのGDPは4,685億ドルで、タイやマレーシアと同水準ですが、依然としてフロンティア市場に分類されています。このため、企業は新興国市場と比べて資金調達で不利な立場に置かれています。ベトナム政府は海外投資を呼び込み、高い経済成長を維持するため、この状況の改善を急いでいます。
FTSEフロンティア市場株価指数の国別状況(2024.9)
国名 | 銘柄数 | 時価総額(百万ドル) | 構成比(%) |
---|---|---|---|
ベトナム | 119 | 37,050 | 38.84 |
モロッコ | 28 | 16,851 | 17.67 |
オマーン | 14 | 7,990 | 8.38 |
ペルー | 7 | 5,904 | 6.19 |
カザフスタン | 6 | 5,026 | 5.26 |
バングラデシュ | 25 | 3,423 | 3.59 |
ケニア | 30 | 2,947 | 3.09 |
スロベニア | 5 | 2,884 | 3.02 |
パキスタン | 16 | 2,729 | 2.86 |
ヨルダン | 16 | 2,220 | 2.24 |
その他 | 39 | 8,351 | 8.51 |
合計 | 271 | 95,384 | 100 |
FTSE新興国市場株価指数の国別状況(2024.9)
国名 | 銘柄数 | 時価総額(百万ドル) | 構成比(%) |
---|---|---|---|
中国 | 1,233 | 2,527,962 | 31.11 |
インド | 243 | 1,872,795 | 23.05 |
台湾 | 128 | 1,511,413 | 18.60 |
ブラジル | 80 | 386,921 | 4.76 |
サウジアラビア | 64 | 344,287 | 4.24 |
南アフリカ | 43 | 243,113 | 2.99 |
メキシコ | 37 | 173,934 | 2.14 |
タイ | 49 | 164,741 | 2.03 |
マレーシア | 39 | 159,585 | 1.96 |
インドネシア | 39 | 147,056 | 1.81 |
その他 | 274 | 560,834 | 6.90 |
合計 | 2,226 | 8,125,143 | 100 |
MSCI/FTSEが提示する昇格の条件
ベトナム市場が新興市場に昇格するためには、以下の基準を満たす必要があります。
1. 外国人投資家のアクセス向上
現在のベトナム株式市場では、外国人保有枠の制限が大きな課題となっています。一般的に、非金融セクターでは49%、銀行セクターでは30%の上限が設けられており、新たな外国資本が市場に流入しにくい状況です。
また、企業の財務報告や投資家向け広報(IR)情報が英語対応されていないケースが多く、外国人投資家が企業の実態を把握する上での障壁となっています。
2. 市場流動性の改善
現在のベトナム市場では取引量が一部の主要銘柄に集中しており、中小型銘柄では流動性が低い状況が続いています。
政府は中小型銘柄の上場を支援するために税制優遇措置や規制緩和を進めています。これにより、幅広い投資家がアクセス可能な環境を整備し、取引の分散化と市場全体の健全性向上を目指しています。
ベトナム証券取引所(HOSE)は、取引システムのアップグレードを進めています。新しいシステムは、注文処理速度を向上させるだけでなく、大量の取引にも対応可能であり、市場全体の効率性を高めるとされています。
3. 市場の透明性と規制の安定性
市場の透明性と規制の安定性は、投資家が長期的に安心して資金を投入できる環境を整えるための基盤です。しかし、ベトナム市場では、規制変更が頻繁に行われるため、投資家の信頼を損ねる要因となっています。
また、国際的に広く採用されているIFRS(国際財務報告基準)への対応が進んでいない企業が多いことも、透明性を低下させており、
指摘に対する対応策は出ているものの、進捗が遅いという印象があります。
新興市場昇格がもたらす資金流入と株価への影響
1. 外国資本の流入予測
MSCIエマージングマーケット指数に組み入れられる場合、パッシブ運用を行う機関投資家が必然的にベトナム市場に資金を投入します。
- 推定流入額
アナリストの予測では、MSCIエマージングマーケット指数への採用後、約30億~50億USDの資金が初期段階で流入する可能性があります。これは市場全体の流動性を大きく押し上げます。 - ベンチマーク効果
MSCI指数への組み入れは、多くのファンドがベンチマークとして使用するため、さらに継続的な資金流入を引き起こすことが予測されます。
2. 株価への直接的影響
外国資本の流入により、以下のような影響が期待されます。
- 株価上昇の範囲
主要銘柄の株価は短期的に20~30%の上昇が見込まれます。この上昇は、パッシブ資金による需要増加が主因です。 - 市場全体の影響
ベトナム市場全体の時価総額は昇格後数年で10~20%拡大する可能性があります。中小型銘柄にも間接的な恩恵が広がると予測されています。
3. 市場環境へのポジティブな波及効果
新興市場昇格は、ベトナム市場に以下のような多方面でポジティブな影響をもたらします。
- 市場の流動性と信頼性の向上
外国人投資家の参入増加により取引量が拡大し、市場全体の流動性が高まります。また、多様な投資家層の増加は価格変動を安定させ、市場の信頼性を向上させる効果が期待されています。 - 企業の透明性と競争力の強化
新興市場昇格に伴い、ベトナム企業には国際基準(例: IFRS)の適合が求められるため、情報開示の透明性が向上します。同時に、ガバナンスの強化を通じて企業の競争力が高まり、外国人投資家からの信頼を得やすくなります。 - 長期的な資金流入と経済基盤の強化 市場の規模拡大により、長期的な資金流入が増加します。この結果、短期的な投機資金の影響が軽減され、市場全体が安定します。これらの変化は株式市場だけでなく、ベトナム経済全体の成長基盤を強化する効果をもたらします。
株価へのインパクトは期待したいところです
まずは大型株が影響がきて、中小はジワジワという感じですね。
ベトナム政府の取り組み
ベトナム政府は新興国市場を目指して、以下のように様々な改革を行ってきました。
時期 | テーマ | 具体的な内容 | 実施主体 |
---|---|---|---|
2014年 | 証券市場の国際化 スタート | 外国人投資家向けの財務情報開示基準を策定、英語対応を開始 | ベトナム証券監視委員会(SSC) |
2015年 | 外国人保有枠 部分的緩和 | 非金融セクターで49%まで拡大 | グエン・スアン・フック首相 (当時) |
2016年 | 証券市場 統合計画発表 | HNXとHOSEの統合に向けた調整を開始 | 財務省および証券取引所 |
2018年 | 電子取引システム導入 | 投資家の利便性向上を目的にオンライン取引を拡充 | ベトナム証券監視委員会(SSC) |
2019年 | IFRS導入計画を発表 | 2025年までの段階的導入を目指す | ファム・ミン・チン首相 (当時副首相) |
2020年 | 改正証券法を施行 | 外国人保有枠の緩和、上場要件の簡素化、投資家保護の強化 | 国民議会および財務省 |
2022年 | 証券取引所の統合 | HNXとHOSEを統合し、ベトナム証券取引所(VNX)を設立 | 財務省およびベトナム証券取引所(VNX) |
2023年 | 新取引システムの試験運用 | 韓国取引所(KRX)と協力し、処理速度と信頼性を向上 | ベトナム証券取引所(VNX)と韓国取引所(KRX) |
2024年(予定) | 外国人保有枠のさらなる見直し | 戦略セクター以外での撤廃や緩和を検討 | 財務省と国民議会 |
2025年(予定) | IFRS全面適用 | すべての上場企業に国際基準の財務報告を義務化 | ベトナム証券監視委員会(SSC) |
外国人保有枠など、まだ改善が進んでいない部分も多く残っているのが事実です。
FTSEとMSCIによるベトナム市場評価の時系列
FTSEとMSCIによる評価は下記のようになっています。
これらの評価から、ベトナム市場は「新興国市場」への昇格に向けて一定の進展を遂げていますが、まだ全ての基準を満たしていない状況です。
政府は引き続き市場改革を推進し、早期の昇格を目指しています。
時期 | 評価機関 | 主な評価内容 |
---|---|---|
2018年9月 | FTSE | ベトナムを「新興国市場」昇格候補リストに追加。 外国人投資家のアクセス改善が必要と指摘。 |
2020年9月 | FTSE | 進展が限定的として、引き続き「フロンティア市場」に分類。 外国人保有枠の問題が主な課題とされる。 |
2023年6月 | MSCI | ベトナムを「新興国市場」への昇格候補リストに含めず。 市場の譲渡可能性と透明性の改善が必要と評価。 |
2024年6月 | MSCI | 譲渡可能性に関する条件が改善されたと評価。 昇格候補リストには含めず。次年度の進展に期待が寄せる。 |
2024年9月 | FTSE | プレファンディング規制の緩和や外国人投資家の参入改善など、ベトナム政府の改革が評価される。 2025年3月にも「新興国市場」昇格の可能性が示唆される。 |
【参考】キャピタルアセットマネージメント社の記事「ベトナム証券市場、新システム稼働とFTSE格上げへの道のり」
まとめ
ベトナム市場は、長年「フロンティア市場」に分類されてきましたが、近年では新興市場への昇格に向けた進展が顕著です。
FTSEとMSCIの評価を通じて、外国人保有枠の制限や市場透明性の向上といった課題が浮き彫りになる一方で、政府主導の改革が着実に進んでいることが評価されています。
2025年3月には「新興国市場」への昇格が発表される可能性が示唆されており、実現すればベトナム市場にはさらなる外国資本の流入が見込まれます。この変化は株価の上昇や市場全体の拡大だけでなく、ベトナム経済全体にとっても重要な転換点となるでしょう。
今後もベトナム政府の取り組みと市場環境の変化に注目し、新興市場昇格がもたらす投資機会を適切に捉えることが重要です。
【まずはインデックス投資から】
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