2024年12月、ホーチミン市の地下鉄1号線(ベンタイン~スオイティエン間)がついに開業しました。
これは、同市にとって悲願ともいえるプロジェクトであり、計画承認から実に17年もの歳月を要しました。しかし、その道のりは決して平坦なものではなく、資金調達の難航、度重なる設計変更、工事の遅延、そして政治的な調整の問題など、数々の困難が立ちはだかりました。
なぜこのプロジェクトはこれほどまでに時間がかかったのか?
その背後には、ホーチミン市とベトナム政府の意見の対立、日本側の技術支援と調整の難しさ、さらには、地下鉄運行会社(HURC1)の資金難といった複雑な事情が絡み合っています。
本記事では、この地下鉄1号線開業に至るまでの苦闘の歴史を振り返ります。
プロジェクトの概要
ホーチミン市の地下鉄1号線(ベンタイン~スオイティエン間)は、同市初の都市鉄道として計画され、当初は2018年までに開業する予定でした。

2007年に総投資額約17,400億ドンで承認されましたが、その後の詳細設計の見直しや追加工事、安全基準の変更などにより工期が大幅に遅れました。
特に、地下区間の建設コストや契約の見直しにより、最終的な投資額は約47,300億ドンに増加し、開業時期も2024年まで延期されることになりました。

当初計画から約7年遅れでの開業となりました。
最初の問題: 資金調達と政府間の調整不足
2007年、プロジェクトが正式に承認された後、最初の大きな課題となったのが資金調達でした。
ホーチミン市は早期の着工を望んでいましたが、2009年から2011年にかけてベトナム政府との調整が難航し、国家予算の承認が遅れました。


ハノイ(政府)とホーチミンとの連携にも問題がありました。
特に2011年には、日本の円借款を活用するための手続きが進められていましたが、ベトナム政府内の承認プロセスが長引き、資金の流れが滞る事態が発生しました。
これにより、2012年に予定されていた建設開始にも影響を及ぼしました。
- 資金提供の遅れ: ホーチミン市は、地下鉄建設の資金を確保するために国からの支援を要請していましたが、国家予算の承認プロセスが長引き、資金の流れが滞る場面が何度も発生しました。
- 管理機関の役割の曖昧さ: ホーチミン市都市鉄道管理委員会(MAUR)と中央政府の間で、プロジェクトの管理・監督権限が明確に定められておらず、予算執行や契約締結の際に混乱が生じました。
- 意思決定の複雑さ: ベトナム政府は中央集権的な管理体制の下で運営されており、地方政府であるホーチミン市の独自の決定が容易に進められない場面がありました。
【ホーチミンメトロ建設の歴史】
ホーチミンメトロの歴史🚊
— レタントン (@aolethanhton) December 27, 2024
2007年
プロジェクト承認 (1.7兆ドン)
2015年完成予定
2011年
市当局が予算増額 (4.7兆ドン)、国会承認なし
2017年
🇻🇳政府資金停止→日本側への支払い滞る
2018年
日本大使館が工事停止の警告
2019年
🇻🇳政府が資金提供再開、JICAが未払分支払い
2024年
完成🎉 pic.twitter.com/5Q4dOdXd3v
建設の遅延と責任者の交代

プロジェクトの建設は2012年に開始されましたが、計画の遅延が深刻化する中、責任者が幾度となく交代し、そのたびに意思決定のプロセスが混乱しました。
- 投資額の増加による承認手続きの長期化: 当初の見積もりよりも大幅に予算が膨らみ、政府の承認プロセスが何度も見直され、決定が遅れました。
- 請負業者の選定プロセスの困難さ: 地下区間の施工を担当する日本の請負業者との契約手続きや仕様調整が進まず、度重なる交渉の末、ようやく工事が動き出すも、技術的な問題が次々と発生しました。
- 施工上の技術的課題: ベンタイン駅の地下掘削中、予期せぬ地盤沈下が発生し、一時工事が完全停止。関係者は「このまま続行するか、それとも大規模な設計変更をするか」で激論を交わし、一ヶ月以上の議論の末に工事が再開されました。
日本側の苦悩と調整の難航
このプロジェクトには、日本側も大きく関わっており、技術支援や資金面での協力を行っていました。
しかし、文化の違い、意思決定プロセスの遅れ、契約の柔軟性の欠如など、日本側の関係者にとっても困難な状況が続きました。

- 意思決定の遅さと調整の負担: 「あるはずの予算が突然凍結されたり、決まっていた契約が再交渉になったりしたことが何度もあった」
- 人材の確保と現地の対応: 現場では日本の技術水準を維持しながらの作業が求められましたが、「図面通りに進められないことが多く、対応に追われる毎日だった」
- 信頼関係の維持: 日本側とベトナム側の間では、交渉のたびに信頼関係を築く必要があり、関係者は「同じ説明を何度も繰り返さなければならなかった」
HURC1の資金難と経営危機

2015年、地下鉄1号線の運行準備を担うために設立された地下鉄1号線運行会社(HURC1)は、開業の遅れにより資金が枯渇し、深刻な経営危機に陥ります。
「毎月の電気代、水道代、インターネット代さえ払えなくなり、会社は一時的にMAUR(ホーチミン都市鉄道管理委員会)の一室を借りて仕事をしなければなりませんでした。
「会社の同僚を助け、生活していくために、知り合いからお金を借りて走り回りました」と、HURC1のレ・ミン・トリエット所長は2022年の危機を振り返ります。
政府はこの事態を重く見て、HURC1が「危機を乗り越え」、運行、列車の運転、メンテナンスのための人員の訓練を継続できるよう、2023年までに2,000億ドン以上の定款資本を提供することを決定しました。

この支援がなければ、開業すら危ぶまれてたかもしれませんね。
まとめ
ホーチミン市地下鉄1号線は、計画から開業まで約17年を要した長期プロジェクトでした。
おはようございます!
— レタントン (@aolethanhton) January 25, 2025
ホーチミンメトロ
なんか小さくて可愛い🩷 pic.twitter.com/8tSMMO0vWA
その背後には、ホーチミン市とベトナム政府の調整不足、責任の所在が不明確なまま進む意思決定の混乱、資金調達の壁、そして現場で起こる数々の問題がありました。
しかし、多くの課題を乗り越え、関係者たちの努力が実を結び、ついに開業を迎えました。
今後の都市鉄道整備がより円滑に進むかどうかは、このプロジェクトの教訓をいかに生かせるかにかかっています。

なにわともあれ開業!
ホーチミンの街がさらに変わっていくことに期待してます。
【参考資料】VNEXPREEの記事を参考にしました。
Hậu trường 'giải cứu' metro Bến Thành - Suối Tiên - Báo VnExpressKhi nhận lá thư của Đại sứ Nhật Bản cảnh báo sẽ ngừng thi công metro Bến Thành - Suối Tiên, nguyên Bí thư Thành ủy TP HC...
【ホーチミンメトロの全体計画はこちらから】
コメント