今回は、2024年度のベトナム鉄鋼業界各社の分析および比較をしていきたいと思います。
2023年の鉄鋼業界は、いくつかの困難に直面しながらも、株価の面では好調を保ちました。平均して、鉄鋼株は58%上昇し、VNインデックスを46%上回るパフォーマンスを示しました。
この上昇は、主に以下の三つの要因によるものです。
- 早期の利益回復:ほとんどの鉄鋼会社は、2022年上半期に他の業界よりも早く底を打ち、利益が回復し始めました。
- 高いベータ値:鉄鋼株は通常、市場平均よりも高いベータ値を持ち、市場が上昇するときにはより大きく価値を上げる傾向があります。
- 前年の低水準からの回復:2022年には鉄鋼業界が51%減、VNインデックスが33%減と、大きく落ち込んでいました。
2024年の鉄鋼業界について、考えていきたいと思います。
【2023年の鉄鋼業界記事はこちら!】
2024年の展望
2024年の見通しは、国内市場の回復が期待されています。
全体の鉄鋼完成品の販売量は前年比6.4%改善し、国内販売量は7%近くの成長が見込まれています。
鉄鋼消費はマクロ経済と不動産市場の回復に支えられ、2023年の消費量は2021年の底値と比べて約3%増加しました。
世界的な需要の見通しも明るく、先進国からの需要が回復し、ASEAN(ベトナムを除く)からの需要が2024年に5.2%増加すると予測されています。
北米とEUの鉄鋼価格とベトナム鉄鋼価格の差額の拡大、およびロシア製の半製品鉄鋼に対するEUへの輸入禁止強化が、ベトナム鉄鋼の輸出を支援すると見られています。
鋼材価格は、需給バランスの改善により2024年に回復する可能性がありますが、不動産市場の低迷による中国での需要の弱まりが全体の需要に影響を与えています。
投入コストの上昇は、短期的に利益率に圧力をかける可能性がありますが、輸出量の増加や原材料コストへの対応により、企業はこの圧力を乗り越えることができるでしょう。
不確実性はたかいものの、回復の兆しが出てきている状態かと思います。
鉄鋼企業の紹介
売上規模から10社をピックアップしています。
SSI証券が利用しているFiinTrade Rank という数値で会社の状態を大まかに把握できると思います。
- Value(価値、割安度)・・・Value株のランキング
- Growth(成長性)・・・成長株のランキング
- Momentum(勢い)・・・現在の勢い
- VGM(財務)・・・財務評価のランキング
Ticker | 社名 | 価値 | 成長 | 勢い | 財務 |
---|---|---|---|---|---|
HPG | ホアファット鉄鋼 | B | B | B | B |
HSG | ホアセン鉄鋼 | F | C | B | C |
NKG | ナムキム鉄鋼 | B | B | A | A |
SHI | ソンハ・ステンレス | F | B | B | B |
POM | ポミナ鉄鋼 | F | B | C | C |
TIS | タイグエン鉄鋼 | D | D | C | D |
SMC | SMC投資貿易 | C | D | C | C |
TLH | ティエンレン鉄鋼グループ | B | B | B | B |
VGS | ベトドゥック鋼管 | B | B | B | B |
HMC | ホーチミン市金属 | C | D | F | D |
苦境にさらされましたが、比較的財務はよい企業が多いです。
2023年の株価推移
2023年の株価推移です。
HSGやNKGが大きく回復したのがわかる一方、その他の企業は、いまだ株価が回復していません。
企業の体力差が出た感じですね。大手は耐えて、株価をもどしています。
2022年4月4日(VNインデックス:1522ポイント)から2024年12月末までの推移です。
2023年売上ランキング
下記のグラフは、各社の売上・経常利益・利益率を表しています。
左から時価総額の高い会社順に並べています。
2023年は、どこの会社も非常に苦しみました。
なんとか利益を上げれたのはホアファットグループでした。
ROE、PERのバブルチャート
非常に業績悪化したため、バブルチャートが表示できませんでした。
EPS、PER比較
非常に業績悪化したため、バブルチャートが表示できませんでした。
会社個別の分析
ホアファットグループ【HPG】
業界トップかつベトナム時価総額もトップ5に入る成長企業です。
2024年に向けた投資視点からは、以下のポイントが挙げられます。
- 収益の回復見込み:販売量と粗利率の両方が改善することにより、2024年の収益は80%回復すると予想されます。特に、販売量は11%増加する見込みです。
- 市場シェアの増加:輸出の回復と国内の一部鉄鋼会社の減産により、建設用鋼材の市場シェアは、2022年の34.8%、2023年初7ヶ月の32.5%から、ここ数ヶ月で約37%に上昇しました。
- 輸出比率の上昇:売上高に占める輸出の割合が上昇することで、原材料コストの上昇分を鋼材価格に転嫁する能力があります。
- 長期的成長の促進:Dung Quat 2拡張プロジェクトが2025年から2026年にかけて段階的に操業を開始することで、2024年以降の長期的な成長が促進される見込みです。
リスク要因としては、最近の投入コストの増加が2024年の第一四半期に利益率に圧迫する可能性があります。また、需要の回復が予想よりも遅れるリスクも指摘されています。
ホアセングループ【HSG】
ホアセングループは、ベトナムにおける鋼板製造・取引の分野でNo.1の企業であり、東南アジアにおける鋼板の主要な輸出企業です。めっき鋼板はシェアトップです。
2024年に向けた投資視点として、以下のポイントが挙げられます。
- 収益の強力な回復:2023年の低水準(2006年以降で最低)から、2024年には収益が20倍に増加し、強く回復すると予想されています。
- 国内市場の回復:2024年には、輸出チャネルよりも国内市場の方がより良く回復すると見込まれています。
- 負債残高の減少:2023年度には、負債残高が2.3倍の低い水準に減少し、所有者資本金の0.22倍に相当します。これは前年度の35%からの改善であり、2018年のピーク時(2.26倍)と比較しても大幅な減少です。
リスク要因としては、以下の点が挙げられます。
- 需要の遅れた回復:需要が予想よりも遅く回復することがリスクとして考えられます。
- 純利益率の薄れ:純利益率が薄れることにより、同社の絶対値での利益が鉄鋼平均価格の変動により、よく変動する可能性があります。
- 市場保護策や販売量への影響:ベトナム市場または輸出市場での保護方法や販売量に影響を与える可能性があります。
NKG【NKG】
主な製品としては、塗装済み亜鉛メッキ鋼板、塗装済み亜鉛アルミメッキ鋼板、黒色鋼管、亜鉛メッキ鋼管、母屋、冷延鋼板、熱延鋼板、亜鉛メッキ鋼板などがあります。
ベトナムの建築資材輸出業者の中でトップ3に入るほどの地位を築いています。研究開発に成功した亜鉛メッキ鋼板Z600は、ベトナムで唯一の3mm厚の製品です。
鉄鋼業界のなかでは高い利益率を誇っており、2022年は苦しみながらも黒字を維持しました。
まとめ
今回は、鉄鋼業界について、比較・まとめを行いました。
ここ数年は鉄鋼業界にとって大変厳しい時期を迎えました。
しかしながら、成長期を迎えるベトナムにとって、鉄はなくてはならないものであり、巻き返しに期待したいところです。
投資判断は難しいところですが、この苦境でも黒字維持できた会社は非常に強いものと思われます。
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