今回は、2023年度のベトナム鉄鋼業界各社の分析および比較をしていきたいと思います。
ベトナム国内では、旺盛な内需拡大と共に、鉄鋼需要が伸びています。2021年まで、この業界のトップを走るホアファットグループ【HPG】をはじめ、各社増産をしても、需要が賄いきれないほどの売上を記録してきました。
しかしながら、コロナの影響もあり、2021年後半より需要が失速しており、非常に厳しい状況が続いています。
2023年の鉄鋼業界について、考えていきたいと思います。
2023年の展望
超厳しい時代から厳しい時代へ!
鉄の世界的な需要の低下から鉄鋼価格が下落し、売上が落ちる一方、原材料価格の高騰、それに合わせて金利の上昇、VND安など費用が悪化したことにより、収益が大幅に悪化しました。
2022年のQ4から鉄鋼価格の戻りや原材料価格が落ち着きを見せており、徐々に業績は回復してきており、鉄鋼会社の収益は底を打つと思われますが、まだまだ需要が低迷しているところから、回復のスピードはそれほど速くないと考えられています。
住宅用不動産の低迷による鉄鋼需要低迷
ベトナム国内の住宅用不動産業界は、社債問題を発端に大物経営者が逮捕されたり、政府の不動産規制(与信枠制限)、金利の上昇による購入者の減少により、大きなダメージを受けました。
それらにより、国内の鉄鋼需要は減少しており、2023年もこの傾向は続くと考えられています。
金利上昇により借り入れコストが上昇
どの鉄鋼会社も有利子負債を持っており、金利上昇局面では支払い利息の増加すると考えられています。各社負債の削減に取り組んでいますが、大きく影響を受ける会社もあるようです。
HPGは負債額は大きいですが、
資産が大きく、比率でみると高くないようです。
負債比率が1.0以上は注意が必要と思います。
鉄鋼業界の反転はいつくるか??
下記の理由から鉄鋼業界に良い風が吹いてきていると考えられます。
- 原料炭価格は、供給環境の正常化に伴い、22年度平均420ドル/トンから 23-24 年度平均 258-220ドル/トンへ緩和すると予想される。
- 鉄鉱石は、需要減退と供給増により、FY22Fの平均US$110/トンからFY23-24Fの平均US$90-70/トンへと長期的な水準へ低下すると予想される。
- 中国経済の回復により、世界の鉄鋼需要が回復すること。
- ベトナムのインフラ整備の加速が需要を押し上げ、住宅市場の停滞を部分的に相殺する。
需要は弱いものの、原材料の価格の落ち着きが追い風になりそうです。
鉄鋼企業の紹介
売上規模から10社をピックアップしています。
SSI証券が利用しているFiinTrade Rank という数値で会社の状態を大まかに把握できると思います。
- Value(価値、割安度)・・・Value株のランキング
- Growth(成長性)・・・成長株のランキング
- Momentum(勢い)・・・現在の勢い
- VGM(財務)・・・財務評価のランキング
Ticker | 名称 | 価値 | 成長 | 勢い | 財務 |
---|---|---|---|---|---|
HPG | ホアファット鉄鋼 | B | B | B | B |
HSG | ホアセン鉄鋼 | F | C | B | C |
NKG | ナムキム鉄鋼 | B | B | A | A |
POM | ポミナ鉄鋼 | F | B | C | C |
SMC | SMC投資貿易 | C | D | C | C |
TIS | タイグエン鉄鋼 | D | D | C | D |
TLH | ティエンレン鉄鋼グループ | B | B | B | B |
VGS | ベトドゥック鋼管 | B | B | B | B |
SHI | ソンハ・ステンレス | F | B | B | B |
HMC | ホーチミン市金属 | C | D | F | D |
昨年のデータと比較すると全体的に悪化しているのがわかります。
参考までに昨年データも残しておきます。
Ticker | 社名 | 価値 | 成長 | 勢い | 財務 |
---|---|---|---|---|---|
HPG | ホアファット鉄鋼 | F | A | B | B |
HSG | ホアセン鉄鋼グループ | B | B | A | A |
NKG | ナムキム鉄鋼 | B | B | B | B |
POM | ポミナ鉄鋼 | D | B | C | C |
SMC | SMC投資貿易 | B | B | C | B |
TIS | タイグエン鉄鋼 | F | B | C | C |
TLH | ティエンレン鉄鋼グループ | B | A | A | A |
SHI | ソンハ・ステンレス | D | B | B | B |
VGS | ベトドゥック鋼管 | D | B | A | B |
VIS | ベトイ鉄鋼 | F | B | C | C |
TVN | ベトナム鉄鋼 | D | B | B | B |
HMC | ホーチミン市金属 | C | B | B | B |
2022年の株価推移
2022年の株価推移です。
SHIの1社のみが、プラスで推移しました。
その他の会社は、VN-INDEXを大幅に下回っています。
ROE、PERのバブルチャート
縦軸がPER・横軸がROEとなります。円の大きさが時価総額となります。
利益の低下および来期の業績予想が低いこともあり、高PERになったものもあります。
一方で、割安放置になっている会社もあることから、ねらい目となる会社もあると思います。
参考までに昨年のデータを残しておきます。
2022年売上ランキング
下記のグラフは、各社の売上・経常利益・利益率を表しています。
左から時価総額の高い会社順に並べています。
2022年売上・利益額トップは、ともにホアファットグループでした。
ダントツともいえる数値ですね。
業界3位のNKGは売上・利益とも第2位のホアセングループ【HSG】を抜き去っています。
EPS、PER比較
下記のグラフは、各社のEPS、BPS(左軸)・PER(右軸)を表しています。
左から時価総額の高い会社順に並べています。
EPSはHPG、NKGの順番となっています。
PERがマイナスになっている企業もあり、非常に厳しい結果となっています。
配当
配当は各社下記のようになっています。Trading View データから取得しています。
昨年の配当実績÷現在の株価のため、過去の実績利回りではありません。
Ticker | 社名 | 利回り(%) | 配当性向 |
HMC | ホーチミン市金属 | 35.07 | – |
SMC | SMC投資貿易 | 8.62 | – |
NKG | ナムキム鉄鋼 | 6.80 | 29% |
HPG | ホアファット鉄鋼 | 2.14 | 12% |
会社個別の分析
ホアファットグループ【HPG】
業界トップかつベトナム時価総額もトップ5に入る成長企業です。
セクターが下降する中で短期投資としてはあまり魅力的でないですが、長期的な投資対象としては非常に良い会社と思われる。
- 東南アジアの鉄鋼業界におけるリーディングカンパニーであることから、土木・交通インフラ建設などの国内需要の急増に乗ることができる。
- キャッシュを豊富に持つ健全なバランスシートにより、業界のダウンサイクルにおいてより多くの市場シェアを獲得することができる。
- Dung Quat Steel Complex 2 (DQSC 2) の建設により、2025年以降、HPGの粗鋼生産能力は現在より66%増の年間1,460万トンとなる見込みになる。熱延コイル(HRC)は国内市場で供給不足に陥っており、輸入に依存しているため、2025年以降mHPGの鉄鋼供給過剰を圧迫するものではなく、期待ができる。
ホアセングループ【HSG】
ホアセングループは、ベトナムにおける鋼板製造・取引の分野でNo.1の企業であり、東南アジアにおける鋼板の主要な輸出企業です。めっき鋼板はシェアトップです。
同社は、大規模な生産ラインや近代的な技術に投資することで、鉄鋼生産のバリューチェーンに投資し、製品の価値を高めることに注力しています。
2022年は、2期連続で赤字を計上するなど苦境に陥り、また大きくシェアを落としました。
他の企業と違い、鉄鋼などの小売りを行っており、在庫増加が悪化材料となっています。
NKG【NKG】
主な製品としては、塗装済み亜鉛メッキ鋼板、塗装済み亜鉛アルミメッキ鋼板、黒色鋼管、亜鉛メッキ鋼管、母屋、冷延鋼板、熱延鋼板、亜鉛メッキ鋼板などがあります。
ベトナムの建築資材輸出業者の中でトップ3に入るほどの地位を築いています。研究開発に成功した亜鉛メッキ鋼板Z600は、ベトナムで唯一の3mm厚の製品です。
鉄鋼業界のなかでは高い利益率を誇っており、2022年は苦しみながらも黒字を維持しました。
まとめ
今回は、鉄鋼業界について、比較・まとめを行いました。
2022年は鉄鋼業界にとって大変厳しい時期を迎えました。
しかしながら、成長期を迎えるベトナムにとって、鉄はなくてはならないものであり、巻き返しに期待したいところです。
投資判断は難しいところですが、この苦境でも黒字維持できた会社は非常に強いものと思われます。
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