今回は、2025年度のベトナム食品・飲料業界各社の分析および比較をしていきたいと思います。
2024年のベトナム食品・飲料(F&B)業界は、世界的な経済環境の影響を受け、消費者の購買行動が慎重になりました。しかし、2025年に向けては、景気の回復、消費者の所得増加、観光業の復活などの要因から、F&B市場全体の成長が期待されています。
本記事では、2024年の市場動向を振り返りつつ、2025年の展望を考察し、投資家にとって注目すべきポイントを解説します。
2024年の振り返り
2024年のベトナムF&B業界は、「消費抑制と価格変動」が特徴的な年となりました。

経済の不透明感が続く中、消費者の支出は慎重になり、企業はコスト管理に苦しみながらも成長機会を模索しました。
消費抑制が顕著
- 高インフレと金利上昇の影響で、都市部・農村部ともに食品・飲料の購入頻度が減少。
- 外食需要が低迷し、家庭向け食品の需要が相対的に強まった。
- 高価格帯の製品は売れ行きが鈍化し、低価格帯の商品へのシフトが見られた。
価格変動が市場に影響
- 砂糖・乳製品: 原材料価格の高騰により、製品価格が上昇。消費者の購入意欲を鈍らせた。
- 肉・魚介類: 豚肉価格は供給不足で上昇、エビやパンガシウスの輸出価格は市場の需要低迷で下落。
- ビール・飲料: 特別消費税の影響で価格が上昇し、販売数量が減少。
業界別の動き
業界 | 2024年の主なトレンド |
---|---|
肉類(豚・鶏) | 豚肉価格が上昇。輸入鶏肉が増加し、価格競争が激化。 |
魚介類(エビ・パンガシウス) | 中国・欧州の需要低迷により輸出価格が下落。 |
乳製品 | 原材料高騰で製品価格上昇。消費量は横ばい。 |
米(コメ) | エルニーニョの影響で生産量減少、価格が上昇。 |
砂糖 | 供給不足で価格が高騰。製糖企業の利益率は改善。 |
飲料(ビール・ソフトドリンク) | 消費税の影響で売上減少。景気回復次第で改善の余地あり。 |
加工食品 | 消費者の節約志向で低価格帯商品が好調。 |
2025年の展望
2025年のF&B業界は、「消費回復と市場成長」がテーマになると考えられます。
経済成長の加速、インフレの落ち着き、観光業の回復などが追い風となり、企業の業績改善が期待されます。

消費回復が本格化
- 2024年の消費抑制から一転し、所得増加に伴う購買力の回復が見込まれる。
- 外食市場が回復し、ビール・飲料市場の成長が期待される。
- 高価格帯製品(プレミアム食品、オーガニック製品など)の需要が回復する可能性が高い。
価格の安定化
- 2024年に高騰した原材料価格が落ち着き、企業のコスト負担が軽減。
- 砂糖・乳製品は供給増加により、価格が安定する見込み。
- 肉・魚介類の輸出市場が回復すれば、生産者の利益率改善につながる。
業界別の注目ポイント
業界 | 2025年の注目ポイント |
---|---|
肉類(豚・鶏) | 豚肉は供給回復で価格調整。鶏肉は国内生産拡大で競争激化。 |
魚介類(エビ・パンガシウス) | 米国・中国市場の回復が鍵。輸出量増加で企業業績改善へ。 |
乳製品 | 4.1%の年平均成長率で市場拡大。健康志向の製品が成長分野に。 |
米(コメ) | 天候リスクはあるが、輸出市場の成長が追い風。 |
砂糖 | 高値維持も供給回復次第で価格調整の可能性あり。 |
飲料(ビール・ソフトドリンク) | 消費税の影響が和らぎ、売上回復へ |
加工食品 | 消費者の多様なニーズに対応する新商品が成長の鍵。 |
F&B企業の紹介
売上規模から20社をピックアップしています。
肉類(豚肉・牛肉・鶏肉)
企業名 | Ticker | 事業内容 |
---|---|---|
ダバコグループ | DBC | ベトナム最大手の養豚企業。飼料から畜産まで一貫生産。 |
ホアン・アイン・ザライ | HAG | 豚・鶏肉生産を拡大中。バナナ農園と組み合わせた事業展開。 |
BAFベトナム農業 | BAF | 豚肉の生産・販売に特化し、供給能力を拡大中。 |
魚介類(パンガシウス・エビ・マグロなど)
企業名 | Ticker | 事業内容 |
---|---|---|
ビンホアン水産 | VHC | パンガシウス(白身魚)の最大手。輸出比率が高い。 |
ナムベト水産 | ANV | パンガシウス生産・加工。特に中国市場向けが大きい。 |
ミンフー水産 | MPC | エビの生産・加工・輸出でベトナム最大手。 |
サオタ食品 | FMC | エビ・水産物加工会社。日本・EU向けの輸出が強い。 |
サオマイ | ASM | IDIの親会社、水産以外にも不動産など手掛ける。 |
国際投資開発 | IDI | パンガシウス(バサ)魚の養殖・加工・輸出に注力 |
乳製品(牛乳・ヨーグルト・乳製品)
企業名 | Ticker | 事業内容 |
---|---|---|
ビナミルク | VNM | ベトナム最大手の乳製品メーカー。牛乳・ヨーグルト・粉ミルクを展開 |
米(コメ)
企業名 | Ticker | 事業内容 |
---|---|---|
中央種苗 | NSC | 種子の研究・開発・生産を手掛け、農業生産の安定に貢献。 |
砂糖
企業名 | Ticker | 事業内容 |
---|---|---|
クアンガイ製糖 | QNS | 砂糖生産最大手・乳製品事業も展開。「Vinasoy」ブランド |
ビエンホア製糖 | SBT | 砂糖とバイオエタノールを生産 |
ソンラ製糖 | SLS | 北部での砂糖生産に特化。国内市場向けが中心。 |
コーヒー
企業名 | Ticker | 事業内容 |
---|---|---|
ビナカフェ | VCF | ビエンホアにて、ベトナムコーヒーの生産・販売 |
飲料(ビール・ソフトドリンク)
企業名 | Ticker | 事業内容 |
---|---|---|
サベコビール | SAB | ベトナム最大手のビールメーカー。「Saigon Beer」ブランド展開 |
サベコ中部 | SMB | サベコビールの中部エリアで製造・販売 |
加工食品
企業名 | Ticker | 事業内容 |
---|---|---|
マサン消費財 | MCH | マサングループの子会社で、インスタント食品・調味料などを展開 |
キドグループ | KDC | 菓子・乳製品・スナック市場に強み |
ナフーズ | NAF | フルーツ加工品・飲料の輸出が主力 |

少し紹介企業数が多くなりました。優良企業が多い業界ですね。
FiinTrade Rank
SSI証券が利用しているFiinTrade Rank という数値で会社の状態を大まかに把握できると思います。
- Value(価値、割安度)・・・Value株のランキング
- Growth(成長性)・・・成長株のランキング
- Momentum(勢い)・・・現在の勢い
- VGM(財務)・・・財務評価のランキング
Ticker | 社名 | 価値 | 成長 | 勢い | 財務 |
---|---|---|---|---|---|
MCH | マサン消費財 | B | A | B | A |
VNM | ビナミルク | C | B | A | A |
SAB | サイゴンビール | C | B | C | B |
QNS | クアンガイ製糖 | B | B | B | B |
KDC | キドグループ | D | B | C | C |
VHC | ビンホアン水産 | B | B | B | B |
HAG | ホアン・アイン・ザライ | D | B | A | B |
SBT | ビエンホア製糖 | C | B | A | A |
DBC | ダバコグループ | C | D | B | B |
VCF | ビナカフェ・ビエンホア | B | A | C | B |
BAF | BAFベトナム農業 | C | B | C | B |
ANV | ナムベト水産 | C | B | A | A |
FMC | サオタ食品 | A | B | B | B |
ASM | サオマイグループ | A | A | B | A |
IDI | 国際投資開発 | A | B | B | A |
SLS | ソンラ製糖 | A | D | F | C |
NSC | 中央種苗 | A | C | C | B |
SMB | サイゴンビール中部 | A | A | B | A |
NAF | ナフーズグループ | C | B | B | B |

成長がAもしくはBの企業が多く、今後に期待が出来ます。
株価推移
2024年の株価推移です。

2024年のベトナムF&B業界では、銘柄ごとに大きなパフォーマンスの差が見られました。
BAF(+52.90%)やMSH(+49.98%)、NAF(+39.71%)が高い成長を記録した一方で、SAB(-14.64%)、HAG(-12.45%)、VNM(-7.61%)は下落傾向にありました。
砂糖・農業関連のSLSやANVも堅調に推移しており、消費回復や輸出市場の成長がポジティブに作用したと考えられる。
一方で、消費低迷の影響を受けた飲料関連や一部食品株は厳しい展開となりました。
ROE、PERのバブルチャート
縦軸がPER・横軸がROEとなります。円の大きさが時価総額となります。
データは2024年12月末のものです。

ビナミルク(VNM)やマサン消費財(MCH)は高ROEで安定成長が期待できる一方、BAFベトナム農業(BAF)はPERが高く、成長期待は大きいが収益性の課題があります。
サオマイグループ(ASM)やナフーズグループ(NAF)は低PER・低ROEで割安だが再評価の可能性あります。
売上ランキング
下記のグラフは、各社の2024年の売上・経常利益・利益率を表しています。
左から時価総額の高い会社順に並べています。

売上規模が最も大きいのはマサン消費財(MCH)とビナミルク(VNM)で、安定した収益を確保していることがわかります。一方、利益率に注目すると、ソンラ製糖(SLS)やIDIが特に高い収益性を示しており、SLSは30%を超える利益率で際立っています。
ASMやBAFは売上はあるものの利益率が低く、収益性に課題があるようです。
EPS、PER比較
下記のグラフは、各社のEPS、BPS(左軸)・PER(右軸)を表しています。
時価総額の高い順番に左から並べています。

EPS(1株当たり利益)が高いのは、ソンラ製糖(SLS)やIDIで、特にSLSは高い配当(DPS)も示しており、収益性の高さが伺えます。一方、PER(株価収益率)が高い企業としてはANVやIDIが挙げられ、成長期待が反映されているようです。ASMやBAFはEPSが低く、株価の割高感が見られます。
配当
配当は各社下記のようになっています。Trading View データから取得しています。
Ticker | 社名 | 配当% |
---|---|---|
SMB | サイゴンビール中部 | 12.55 |
VCF | ビナカフェ・ビエンホア | 11.68 |
SLS | ソンラ製糖 | 10.63 |
SAB | サイゴンビール | 7.43 |
VNM | ビナミルク | 6.19 |
NSC | 中央種苗 | 4.88 |
FMC | サオタ食品 | 4.3 |
VHC | ビンホアン水産 | 2.94 |
ANV | ナムベト水産 | 1.45 |
KDC | キドグループ | 1.02 |

この業界は高配当を出す企業も多いのが特徴ですね。
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会社個別の分析
マサン消費財(MCH)

食品・飲料市場で強いブランド力を持ち、即席麺や調味料、飲料などを幅広く展開。
2025年は農村市場への浸透とEC販売の拡大により売上成長が見込まれるほか、消費回復に伴う需要増で利益率の向上も期待される。特に、流通ネットワークの強化と新商品の投入が成長のカギとなる。
ビナミルク(VNM)
国内最大の乳製品メーカーで、東南アジアや中東など海外市場への輸出にも強みを持つ。
2025年は国内消費の回復と輸出拡大が売上成長を牽引するとみられ、特に健康志向の高まりにより機能性乳製品の需要増加が期待される。原材料価格の安定化も利益率向上に寄与する見込み。
ソンラ製糖(SLS)
北部ベトナムに拠点を持つ製糖企業で、国内市場に強い。
砂糖の供給不足が続く中、価格の高止まりと安定した需要により、2025年も高い利益率を維持しながら収益の増加が見込まれる。
政府の国内生産保護政策により市場環境は引き続き良好で、安定成長が期待される。
国際投資開発(IDI)
パンガシウス(バサ)魚の輸出を主力とする水産加工企業で、中国市場向けの輸出拡大が成長のカギ。
2025年は中国市場の回復とともに、輸出量増加による売上成長が期待される。
政府の輸出支援策や水産業界全体の回復が追い風となり、利益率の改善も見込まれる。
Vinh Hoan(VHC)
ベトナム最大のパンガシウス輸出企業で、特に欧米市場向けの販売に強みを持つ。
2025年は米国・欧州市場の回復に加え、コラーゲンやゼラチン製品といった高付加価値商品が利益率向上を支える。ESG(環境・社会・ガバナンス)対応を強化しており、持続可能な水産業モデルへの取り組みも市場評価を高める要因となる。
6. ダバコグループ(DBC)
養豚を中心とする畜産企業で、飼料生産や食品加工も展開。
2025年は豚肉価格の安定と国内消費の回復が業績を押し上げると予想される。
特に、供給量増加と生産効率向上により利益率が改善し、畜産業界全体の成長とともに企業の収益性向上が期待される。
まとめ
ベトナムの食品・飲料(F&B)業界は、国内消費の回復と輸出市場の拡大を背景に、2025年に向けて成長が期待されています。
2024年は、消費抑制と価格変動が市場の主要テーマとなりましたが、2025年は国内消費の回復、輸出市場の拡大、価格の安定が業界成長を後押しする見込みです。
業界により特色がありますので、時事を見ながら、成長する企業を見極めるのがポイントとなると思います。
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