今回は、工業用不動産業界(工業団地)の各社を業績を比較していきたいと思います。
ベトナムの工業不動産市場は、外国直接投資(FDI)の拡大、政府のインフラ投資、サプライチェーンの再編 を背景に、近年成長を続けています。特に、「中国+1」戦略 によって多くの製造業がベトナムに拠点を移し、工業団地の需要が急増 しました。
しかし、2024年は 世界的な最低法人税(15%)の導入 が外資誘致の課題となり、競争環境が変化しつつあります。さらに、特定の産業に特化した工業団地の開発が進み、電子機器、半導体、自動車、物流、エネルギー関連の工業団地が注目されるようになりました。
2025年も、FDIの流入、インフラ整備、新規工業団地の開発 により市場は成長を続けると予測されますが、すべての企業がその恩恵を受けられるわけではありません。
本記事では、2024年の市場を振り返りながら、2025年の展望と注目すべき企業を解説します。
2024年の振り返り
2024年のベトナム工業不動産市場は、工業団地の稼働率が平均83~85%と高水準を維持し、土地賃貸料も前年比5~10%上昇 するなど、引き続き堅調に推移しました。特に、北部と南部で異なる市場動向 が見られました。
北部(ハノイ・ハイフォン・バクニンなど)
- 電子機器・精密機械関連のFDI流入が活発 で、LGやFoxconnなどの大手企業が投資を拡大。
- 土地賃貸料は145~165USD/㎡ で推移し、前年比5-7%上昇。
- ハイフォン・クアンニンでは港湾インフラ整備が進み、さらなる投資拡大が期待 される。
南部(ホーチミン・ビンズオン・ドンナイなど)
- 長年の工業団地開発により、立地の良い土地は供給不足。
- 土地賃貸料は180~225USD/㎡ と北部より高く、前年比5-10%の上昇。
- ロンタイン国際空港の開発が進み、今後の物流効率化が期待される。
また、2024年は ESG対応型の「スマート工業団地」 の開発が進み、環境基準を満たす工業団地が増加したことも特徴的かと思います。
2025年の展望
「成長の継続と競争の激化」

北部(ハノイ・ハイフォン・バクニンなど)
北部は、特に 電子機器・半導体・精密機械産業 の進出が増加しており、ハイフォンやバクニンの工業団地がその中心となっています。
2025年の成長要因
- 電子機器・半導体企業の投資増:LG、Foxconn、Samsung などが引き続き北部の工業団地を拡張。
- 中国+1戦略の加速:中国に依存していた製造業が、ベトナム北部に生産拠点を分散。
- インフラ整備:ハイフォン港や新幹線計画が進み、物流の効率化が期待。
南部(ホーチミン・ビンズオン・ドンナイなど)
南部は、すでに 成熟した工業団地が多く、土地供給が限られている ため、新規開発よりも高付加価値産業や物流強化が焦点となります。
2025年の成長要因
- 土地賃貸料の上昇:立地の良い工業団地では、賃貸料がさらに上昇する見込み(180~225USD/㎡)。
- 物流・港湾インフラの強化:ロンタイン国際空港が開業予定で、輸出入企業の増加が期待。
- エネルギー・重工業へのシフト:石油化学・製造業向けの工業団地が成長。

北部と南部で役割分担が出来てきた感じがします。
世界的な最低法人税(15%)の導入とその影響
税制優遇(法人税免除・減税)が制限
2024年から、OECDが主導する「BEPSプロジェクト」に基づき、売上高7.5億ユーロ(約1,200億円)以上の多国籍企業に最低法人税率15%が適用されることになりました。
これにより、ベトナムがこれまでFDI誘致の柱としていた税制優遇(法人税免除・減税)が制限され、企業の投資判断に影響を与える可能性があります。
特に、Samsung、LG、Foxconn、Intelなどの電子・半導体企業は、従来の税制メリットを享受していたため、新ルールの影響を大きく受けると考えられます。
その結果、企業がマレーシアやインド、インドネシアと比較しながら進出を検討する動きが出る可能性があります。
ベトナム政府の対応策
- インフラ投資の拡大(高速道路、港湾、空港整備)
- 土地賃貸料の優遇制度の継続
- 技術移転・人材育成支援の強化
特に、特定産業向けの工業団地を整備し、企業が税制以外のメリットを享受できる環境づくりを強化しています。これらの施策により、政府は引き続きFDI誘致を維持する方針です。
工業用不動産業界の会社紹介
工業用不動産業界は多くの企業が存在しているため、売上規模から12社をピックアップしています。
SSI証券が利用しているFiinTrade Rank という数値で会社の状態を大まかに把握できると思います。
データは2024年12月末時点のものです。
- Value(価値、割安度)・・・Value株のランキング
- Growth(成長性)・・・成長株のランキング
- Momentum(勢い)・・・現在の勢い
- VGM(財務)・・・財務評価のランキング
Ticker | 社名 | 価値 | 成長 | 勢い | 財務 |
---|---|---|---|---|---|
GVR | ベトナムゴム工業 | C | A | A | A |
BCM | ベカメックスIDC | C | B | B | B |
VGC | ビグラセラ | C | B | B | B |
KBC | キンバックシティー | B | B | B | B |
IDC | ベトナム工業団地 | B | B | B | B |
SIP | VRGサイゴン投資 | B | B | B | B |
SZC | ソナデジ・チャウドゥックHD | C | B | A | B |
PHR | フオックホアゴム | D | B | B | B |
LHG | ロンハウ工業団地 | A | A | B | A |
TIP | ティンギア工業団地開発 | C | F | B | C |
SZB | ソナデジ・ロンビン | B | D | F | C |
D2D | 第2工業都市開発 | C | D | B | C |
GVR、PHRはゴム業界の企業ですが、持っている土地を工業団地に変えて、参入してきております。
また、ビングループやホアファットなど大手企業も工業団地を開発することを検討しています。
2024年の株価推移
2024年の株価推移です。

このチャートを見ると、工業不動産銘柄がVN-Index(+10.89%)を大きく上回るパフォーマンスを示していることが分かります。
特にGVR(+54.85%)やSIP(+46.85%)は大きく上昇し、セクター全体として好調です。
一方で、KBC(-13.98%)やVGC(-9.13%)など、一部の銘柄はマイナス圏で推移しており、同じ工業不動産セクター内でも明暗が分かれています。
ROE、PERのバブルチャート
縦軸がPER・横軸がROEとなります。円の大きさが時価総額となります。

ベトナムの工業用不動産セクターでは、企業ごとの収益性(ROE)と市場評価(PER)に大きなばらつきが見られます。
SIP(VRGサイゴン投資)やIDC(ベトナム工業団地)はROEが高く、投資家の評価も高いです。
一方、KBC(キンバックシティー)やD2D(第2工業都市開発)はPERが高いものの、ROEは比較的低く、市場の期待値と実績にギャップがある可能性があります。
LHG(ロンハウ工業団地)やTIP(ティンギア工業団地開発)はROEが高いにもかかわらずPERが低く、割安感のある銘柄と考えられます。
工業用不動産セクターは成長が続く中でも、銘柄ごとに投資妙味が異なることが分かります。
2024年売上ランキング
下記のグラフは、各社の売上・経常利益・利益率を表しています。
左から時価総額の高い会社順に並べています。

ベトナムの工業用不動産セクターでは、企業ごとの売上規模と収益性に大きな違いがあります。
GVR、IDC、BCM、SIPは売上が大きく、事業規模の大きい企業といえます。
TIPやLHGやSZCも高い利益率を維持しており、効率的な経営が行われている可能性が高いです。
GVRやIDC、KBCは売上規模が大きいものの、利益率はそれほど高くありません。
規模の大きさは強みですが、コスト構造や収益性の面で改善の余地があると考えられます。
一方、SZBやD2Dは売上・利益ともに小さく、利益率も低いため、競争力や成長の余地を見極める必要があります。
EPS・BPS、PER比較
下記のグラフは、各社のEPS、BPS(左軸)・PER(右軸)を表しています。
左から時価総額の高い会社順に並べています。

一旦工業団地に入ると、なかなか入れ替わりというのが少ないため、安定経営ができているものと考えられます。
配当利回りランキング
2024年度の配当実績です。Trading View データから取得しています。
昨年の配当実績÷現在の株価のため、過去の実績利回りではありません。
Ticker | 社名 | 利回り% |
---|---|---|
D2D | 第2工業都市開発 | 25.14 |
SZB | ソナデジ・ロンビン | 8.25 |
TIP | ティンギア工業団地開発 | 7.66 |
IDC | ベトナム工業団地 | 7.31 |
PHR | フオックホアゴム | 5.77 |
LHG | ロンハウ工業団地 | 5.44 |
VGC | ビグラセラ | 4.53 |
SZC | ソナデジ・チャウドゥックHD | 2.36 |
SIP | VRGサイゴン投資 | 1.96 |
BCM | ベカメックスIDC | 1.44 |
GVR | ベトナムゴム工業 | 1.04 |
高い配当を出している企業が多く、株主還元の意識が強い業界といえる。利益を積極的に株主に還元する姿勢が見られ、安定した配当収入を求める投資家にとって魅力的なセクターとなっています。

高配当株狙いの方にもおすすめできる業界ですね。
企業の紹介
ホアフックゴム(PHR)
PHRは、ビンズン省で5,600ha以上のゴム用地ファンドを工業団地に転換し、ベトナムの需要拡大を取
り込むことを目指しています。2023年は工場団地系の進捗は滞るものの、2026年~2030年までに5つのIPのうち約2,600haが稼働する可能性があります。
ベカメックス(BCM)

Becamex IDC(BCM)は、ベトナム最大級の工業団地デベロッパーであり、VSIP(Vietnam-Singapore Industrial Park)シリーズを展開しています。
電子機器、自動車、医薬品などの多岐にわたる産業を誘致しており、その広範な産業誘致力が強みで、シンガポール政府系企業との連携によって、高品質なインフラ整備が進み、外資系企業からの信頼も厚い。
ベトナムの工業化を推進する中核的な役割を果たしており、製造業全体の成長と連動して安定した収益が見込まれています。
キンバックシティ(KBC)
Kinh Bac City(KBC)は、電子機器や半導体向けの工業団地を展開している企業です。
ハイフォン市に位置するKCN Tràng Duệでは、LG電子やFoxconnなどの大手企業を誘致し、ハイテク製造業の集積地として発展している。
ハイフォン港に近接しており、物流の利便性が高いことから、さらなる外資企業の進出が期待される。特にベトナム政府が半導体産業の育成を支援していることから、今後の成長余地が大きい。
ベトナム工業団地都市開発総公社(IDC)
IDICO(IDC)は、重工業やエネルギー関連の企業向けに特化した工業団地を提供しています。
バリア・ブンタウ省にあるKCN Phú Mỹ 2では、石油化学や重工業企業の誘致が進んでおり、ベトナム南部のエネルギー拠点としての地位を確立している。
政府のインフラ投資やエネルギー関連プロジェクトと連動して、長期的な安定成長が見込まれています。
ソナデジ・チャウドゥック(SZC)
Sonadezi Châu Đức(SZC)は、港湾・物流向けの工業団地を展開しています。
バリア・ブンタウ省に位置するKCN Châu Đứcでは、輸出入企業の需要に応えるため、物流インフラの整備を進めています。港湾に近いため、貿易や物流企業の誘致が進み、ベトナムの輸出入拡大に伴って成長が期待されている。
港湾インフラの強化とともに、企業の集積が進む見込みです。
VRGサイゴン投資(SIP)
Saigon VRG(SIP)は、工業団地と都市開発を組み合わせた総合型のデベロッパーです。
ホーチミン近郊のKCN Đông Namを含む複数の工業団地を展開し、住宅や商業施設と一体化した開発を進めている。工業団地と都市開発の相乗効果により、産業と住環境の両面で安定した成長が期待される。
都市化が進むホーチミンエリアでの活動が中心であり、長期的な投資対象として魅力的です。
ロンハウ工業団地(LHG)
LHGは、ホーチミン市から南に行ったロンハウ省で工業団地を運営しています。
ロンアン (ホーチミン市の玄関口) とヒープフック港にある総面積約 370 haの 3 つの工業団地で取引を行っています。さらに2つの工業団地(合計 290 ha)申請中です。
また、ダナンにも展開を始め、高い収益性を持っています。
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まとめ
2025年のベトナム工業不動産市場は、FDIの拡大、インフラ整備、新規工業団地開発の進展 により、成長が続くと見られます。
一方で、最低法人税の導入が外資誘致に影響を与える可能性があり、競争力のある工業団地とそうでない工業団地の差がより明確になるでしょう。
特に、北部は電子機器・半導体産業、南部は物流・エネルギー産業に特化した工業団地の成長が期待 され、今後は産業ごとの適正地を見極めた投資が重要になります。
政府のインフラ投資や政策支援が続く中、今後の成長エリアや企業を選別することが、成功の鍵 となるでしょう。
<参考資料>業界比較のまとめ記事です。
2023年度過去記事はこちらを参照ください!
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