今回ご紹介するのは、ベトナム最大級のコングロマリットビングループ(Vingroup/ティッカー:VIC)です。
不動産、観光、教育、医療、そして近年では電気自動車──。暮らしに直結するあらゆる分野を手がけ、まさにベトナムの現在と未来を象徴するような企業です。
Vingroupの戦略を一言で言えば、“ベトナムの未来像を先回りして実装する民間主導の社会モデル”。
それは、今の利益より「社会にとって必要かどうか」を優先する姿勢に根ざしています。
ベトナムという国のあらゆる分野に触れながら、Vingroupは「もうひとつの政府」として、静かに未来を形にしようとしているのかもしれません。
これからのベトナムを占ううえで、この企業の動向を見ておくことはとても意味があるのではないかと思います。
今、Vingroupは新たな成長ステージに入ろうとしています。
本記事では、2025年に向けたVingroupの現在地とこれからについて、各事業の展開や財務の数字も交えながら、わかりやすく整理していきます。

躍動するベトナムを象徴する企業だと思います!
会社概要

概要
Vingroup(ヴィングループ)は、もともと1993年にウクライナで創業されたベトナム人実業家ファム・ニャット・ヴオン氏による企業グループ「Technocom」を母体としています。

当時は即席麺事業からスタートしましたが、2000年代初頭に本格的に本拠をベトナムへ移し、不動産開発から小売、観光、医療、教育へと次々に事業を拡大してきました。
現在では、ベトナムで最も大きく、最も影響力のある民間企業の一つとして知られ、証券コード「VIC」でホーチミン証券取引所(HOSE)に上場しています。
グループ会社
Vingroupの強みのひとつは、そのグループ会社の多様性と業界内での圧倒的な存在感にあります。
各事業は独立性と柔軟性を持ちつつ、グループ全体としては一貫したブランド戦略のもと、シナジーを生み出しています。

主な中核企業には以下のようなブランドがあり、それぞれの業界でトップクラスの地位を確立しています。
- Vinhomes(不動産):都市型マンション・大型住宅開発で圧倒的シェア
- Vincom Retail(商業施設):国内最大規模のショッピングモール運営
- Vinpearl(観光・リゾート):ホテル・テーマパーク・ゴルフリゾートなどを展開
- Vinschool / VinUni(教育):初等教育から大学教育まで、国内最高水準の教育サービスを提供
- Vinmec(医療):先進的な医療サービスと私立病院ネットワークを構築
- VinFast(電気自動車):ベトナム初のEVブランドとして世界展開を推進
- VinRobotics / VinMotion(ロボティクス):次世代技術への投資と製品開発を担う新興分野
これらの企業群は、それぞれが単独でも業界をけん引する力を持ちつつ、「生活インフラのすべてを提供するVingroupエコシステム」として機能している点に、同社ならではの特異性があります。
都市、ライフスタイル、移動、教育、健康といった人々の暮らしを丸ごと支える存在──それが現在のVingroupの姿です。

各分野のトップの集合体=ビングループって感じですね。
【グループ会社の紹介はこちらから!】
経営層
Vingroupの創業者であり、現在も取締役会会長を務めるのが、ファム・ニャット・ヴオン(Phạm Nhật Vượng)氏です。
1968年ハノイ生まれ。ウクライナ(旧ソ連)で鉱業・地質学を学んだ後、1990年代にウクライナで即席麺ビジネスを成功させ、その後、故郷ベトナムへの帰国とともに、Vingroupの前身となる事業をスタートさせました。
彼のビジネススタイルは、社会全体のニーズに応えるために先んじて投資を行う「未来先取り型」と評されることが多く、その大胆さが際立っています。

滅多にメディアには出ないとのことですが、その分言葉の重みが違いますね。
戦略・マーケティング

Vingroupは単なる多角経営企業ではなく、未来のベトナム社会そのものを構築していく構想型企業といえる存在です。
ファム・ニャット・ヴオン会長が掲げる戦略は、利益追求型の短期経営とは一線を画し、10年後、20年後のベトナム人の暮らしと経済構造をどう変えていくかという長期目線に立ったものが多く見られます。
「国家機能の代行」としての都市設計
Vingroupは、国家が行うべきレベルの事業を、民間企業の発想とスピードで代替・実行していくモデルを取っています。
都市そのもののインフラ(交通・医療・教育・住宅・商業)を一気通貫で設計・運営することで、“暮らしごと提供する”新しい経済圏を構築しています。
将来的には、
- ベトナム各地にVingroup型スマート都市(Vinhomes)を展開
- 「公共インフラ+民間品質」を融合したハイブリッドモデルを確立

街ごと作るという戦略ですね。
EVから“移動社会”のリデザイン

VinFastの電気自動車戦略は、単なる製品開発にとどまらず、
- 都市型モビリティ(タクシー/デリバリー/バイク)
- 郊外/地方向けの自家用車
- 次世代交通(鉄道/バス連携)
といった、社会の移動構造を再設計する視点で展開されています。
今後は、
- 地域別・用途別に特化したモデル展開
- 自社製バッテリー・リース・充電網整備のトライアングル構築
- 海外では「自社充電インフラ付き」でEV市場を直接切り拓く可能性も模索
“ベトナム発グローバルブランド”の確立
Vingroupは明確に「ベトナム製品・サービスのグローバル定着」を目指しています。
これまで国際市場で“OEM供給国”としての立場が強かったベトナムにおいて、「Vingroupブランドで世界にベトナムを売る」という発想は極めて画期的です。
今後は、
- VinFastやVinpearlを筆頭に、海外で「Vietnamese Quality」を確立
- 高価格帯・富裕層向け市場への進出も視野に(例:高級ホテル/医療/大学)
公共領域と未来分野への長期投資

Vingroupは、教育や医療、都市インフラといった本来は公共セクターが担う領域にも積極的に参入し、サービス品質と効率性を高めることで、社会に貢献しながら新たな成長機会を生み出しています。
- 教育:Vinschool(初等〜高校)やVinUni(大学)で、ベトナム国内の高度人材育成を推進
- 医療:Vinmec病院ネットワークを全国展開し、私立医療の品質向上を牽引
- 都市インフラ:高速鉄道、港湾、交通網などへの民間資本による関与も模索中
さらに、グループ内の研究開発部門や投資ファンド(VinIF、VinVentures)は、AI、ロボティクス、再生可能エネルギーといった分野にも長期的視点で投資を行っています。
- VinMotion / VinRobotics:サービスロボットやスマート機器の開発
- 2030年目標:再生可能+LNG発電で22.5GWの電源容量構築
- スタートアップや科学者支援を通じたベトナム国内の技術土壌の育成
これらの取り組みはすべて、ベトナムの次世代を支える「知と技術のインフラ」として位置づけられています。
ビングループの財務分析
売上・利益・利益率

2021年にはVinFastを中心とした新規投資が先行し、税引後で大きな赤字を記録しました。
その後、2022年~2024年にかけてはVinhomesの不動産引渡し回復や観光事業の黒字転換により、利益は安定的に改善しました。
特筆すべきは2025年・2026年の急成長の計画です。
売上は2024年の約1.9兆VNDから、2025年に初の3兆VND台へ到達予定(+59%)。利益も倍増し、利益率は4~5%台へ上昇する見通しです。
背景には、VinFastの販売台数倍増計画(20万台)やVinpearlの上場、不動産・インフラ新規プロジェクトの本格始動などが挙げられます。
これらの数字は、単なる回復ではなく、「第二の成長ステージ」へ進むVingroupの野心的な姿勢を物語っています。
収益性の改善と事業基盤の広がりが同時に進行している点は、今後の投資判断においても注目に値します。

私のような凡人には、この計画は厳しいように思いますが、、、
自己資本比率

Vingroupの2024年末時点の自己資本比率は18.4%と、国内外の大手企業と比べてもやや低めの水準にあります。
これは、同社が成長投資を積極的に行っていることに起因しており、特にVinFastや都市開発、再生可能エネルギーといった大型案件への先行投資が資金需要を押し上げています。
負債依存度が高い一方で、総資産は順調に拡大しており、資産構造自体は安定傾向です。
今後の利益蓄積や資本増強が、財務健全性をどう改善していくかが注目されます。
資本効率

ROE(自己資本利益率)は9.5%、ROA(総資産利益率)は1.6%です。
ROEは前年から改善しており、効率的な資本運用がなされていることを示していますが、ROAは依然として低水準にとどまっており、大規模な総資産に対して収益の厚みがやや物足りない状況です。
これは資本効率の改善途上にあることを示しており、今後の利益成長がどれだけ資産効率に反映されるかが注目されます。
キャッシュフロー

2023年までは投資キャッシュフローの大幅なマイナスが続き、積極的な設備投資やプロジェクト開発が財務活動に強く依存していたことがわかります。
一方、2024年は事業活動からのキャッシュ創出が安定し、財務キャッシュフローへの依存度がやや緩和されました。
現金保有残高も堅調に増加しており、資金繰りの安定化が進んでいることがうかがえます。収益化とのバランスが今後の鍵となるでしょう。
配当利回り
2014年以降、配当はされておりません。Vingroupは無配(配当ゼロ)の方針を継続しています。
利益が過去最高水準に達している中でのこの決定は、成長投資に全資金を回すというグループの明確な意思表示といえます。特にVinFastの量産化、再エネや都市開発など資金需要の大きなプロジェクトを抱える中、内部留保の確保は財務戦略上の最優先事項となっています。
株主還元よりも成長重視の姿勢が貫かれています。
チャート
現在の株価は下記のようになっています。(FinAnt提供)
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今後の見通し
Vingroupは、「現時点の収益」よりも「5年後・10年後の国家・社会に必要な投資」を優先する姿勢を一貫して貫いています。
その成果が本格的に実を結ぶのはこれからですが、同社が描いている未来のスケール感こそが、他の企業とは一線を画す理由といえるでしょう。

そうした長期ビジョンの下で、Vingroupは2025年以降、以下の3つの軸を中心に、新たな成長局面に踏み出そうとしています。
不動産・観光事業の本格回復と利益基盤の強化

2024年における売上高のうち大部分を占めるのが、VinhomesとVinpearlを中心とした不動産・サービスセグメントです。
特に、Vinhomesは新規都市開発プロジェクト「Vinhomes Green Paradise」の着工を皮切りに、2025年にはさらなる引渡しラッシュが見込まれています。
- 2025年はVinhomes単体で10万戸以上の引渡しが期待されており、収益認識に直結
- VinpearlもMICE需要の回復・拡大により、観光業の高収益化を推進。2025年5月の上場が予定されており、財務の透明性と市場評価が高まる見通しです。
これらの動きが、グループ全体の利益の下支えとなることが確実視されています。
VinFastの黒字転換とグローバルEV市場への“挑戦継続”

VinFastは2024年に約88,000台を販売し、2025年には倍増となる20万台の販売を目指す計画です。
この水準に到達すれば、国内事業での損益分岐点(BEP)を突破することが可能とされています。
- 海外では、インド(6月末)、インドネシア(10月)に新工場が稼働予定
- アジア市場では販売拡大を、米国や欧州では「ブランド浸透」を重視した“二層戦略”を採用
- VinFastの収益化が実現すれば、グループ全体の成長にブーストをかける存在へ
ただし、2025年時点ではなお先行投資が継続する見通しで、フリーキャッシュフローの黒字化は2026年以降になるとの見方が有力です。
社会インフラ・エネルギー分野への本格進出
Vingroupは、2025年から2030年にかけて再生可能エネルギー・LNG発電・高速鉄道・港湾インフラなどへの参入を強める方針を打ち出しています。
- 2030年までに22.5GWの電源開発を目標とする大規模エネルギー投資計画
- ホーチミン~カンザー間の250km/h 高速鉄道(48.5km)や複数港湾の調査も進行中
- 2024年末の自己資本比率18.4%とやや低い財務体質を、成長型インフラで乗り越える構想
これらの事業は短期的な収益貢献よりも、「国家の基盤を民間で支える」中長期戦略といえ、将来の評価益やブランド価値への波及効果が期待されます。
【過去記事はこちら!】
まとめ・株価予想(独断)
Vingroupは、不動産、観光、教育、医療、そして電気自動車や再生可能エネルギーといった先端領域まで手がける、まさに“ベトナムの未来像を先取りする企業”です。
短期的な収益よりも、「社会全体にとって必要かどうか」を優先するその姿勢には、経済的合理性を超えた“国づくり”への意志が感じられます。
2025年は、Vingroupにとって第二の成長フェーズの始まりです。VinFastの黒字転換、Vinpearlの上場、不動産開発の加速、そしてエネルギー・インフラ事業への本格参入──。それぞれが単独で成長するのではなく、全体として“生活そのものをつくるエコシステム”として進化しています。
もちろん、負債依存の高さや先行投資の規模といったリスクも抱えています。
それでもなお、Vingroupはベトナムらしい挑戦と成長を体現する、稀有な企業です。
その戦略は国家の未来と重なり合い、企業の枠を超えたスケールを感じさせます。すぐに結果が出る投資ではないかもしれませんが、「この企業の未来を信じて応援したい」と思わせる力があります。
PERの過去5年平均は17.5で、予想EPSから見た適正株価は60,527VNDになります。

【優良銘柄の宝庫VN30の記事はこちら!】
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